領事の出張 (8月23日~24日)
アラバマ州北部のハンツビル市から車で30分ほど西に進んだところにヘレン・ケラーの生地として知られるタスカンビア市があります。現在,その街の傍にある老人介護施設で高齢の日本人女性が一人で生活しています。
その女性は米国人男性と結婚後に一人の男児を出産しましたが,夫も子供も15年ほど前に他界し,長い間,僅かな年金を受給しながら,一人で生活していました。彼女の状況を聞き知ったソーシャルワーカーのテリー・グリフィンさんが彼女の住む借家を訪ねたところ,屋内にはネズミや猫が行きかい足の踏み場もない有様で,到底,人が生活できるような環境ではなかったため,テリーさんは,行政などの協力を得て衰弱していた彼女を病院に移し,回復後の女性の施設への入所を手助けされました。
在アトランタ総領事館は,その女性の年金受給の関係書類が必要との連絡をテリーさんから受けて本件を知り,テリーさんの献身的な対応に領事を派遣してお礼を伝えるとともに,行政手続きの支援を行うことにしました。出張に際し,領事は,まず,北アラバマ大学に立ち寄って日野光高,八坂雄志ご夫妻に女性の状況を説明してサポートをお願いしたところ,「通訳などできるだけのことをさせていただきたい」との言葉を頂きました。その後,領事は,テリーさんの勤務先に赴き,女性への献身的なサポートについてお礼を述べたところ,テリーさんからは,「当時,彼女はわずかな年金を頼り,その日暮らしのような生活を送っていました。彼女は病院や施設に移ることを嫌がっていましたが,ネズミのいる“あの家”に彼女を置き去りにすることはできませんでした。彼女には少しでも長く施設に住んで貰いたいと思っています。そのためにはできる限りの支援をしたいと思っています。」と話されました。その後,領事は,女性が入所する施設の所長さんを訪ねて女性の様子をうかがったところ,所長さんは「彼女は,週に一度の夫と息子の墓参りを楽しみにしています。他の入所者とも仲良く生活していますので,彼女が希望する限り,いつまでも住んで貰いたいと思っています。」と話されました。
翌日,領事は,女性に会って,生活や健康状況について尋ねました。長期間の一人暮らしのためか,たどたどしい日本語と英語を使いながら,女性は,「施設の皆さんには親身な対応をして貰っています。こちらに入所して3食の食事をとることができるようになりました。体重もちょっと増えました。」と話し,領事が,今回の出張目的であった女性の年金受給に必要な書類への署名をお願いしたところ,女性は,「以前も同じ書類にサインするように施設の方などに言われたのですが書類の意味が分からなかったので,サインしませんでした。領事さんがこの書類は年金受給に必要な書類,と教えてくれたので安心してサインできます。」と言い,「英語でのサインでもいいですか,英語が好きなので」と述べて丁寧な筆記体で書類に署名しました。
~あとがき~
当館が管轄する5州(アラバマ州,ジョージア州,サウスカロライナ州,ノースカロライナ州,バージニア州)には合計24千名を超える在留邦人が滞在しています。皆様の周りにも今回の女性のような方がいらっしゃるかもしれません。領事出張サービスで各地を訪問すると,車の運転ができずに相乗りして来られる方もいらっしゃいます。総領事館は,北アラバマ大学でお会いした皆さん,テリーさん,所長さんのような方々との関係を大切にしたいと考えています。皆様のお住まいの地区で困っている方がいらっしゃれば当館でも可能な範囲でお手伝いさせて頂きたいと思っています。(平成24年8月)
タスカンビア市の周辺にはフランクロイドライトが設計した家(ローゼンバウムの家)やブルースの父と呼ばれたW.C.ハンディの生家,テネシー渓谷に建設された大型ダム(ウイルソン・ダム)があります。