石巻日日新聞の手書きの壁新聞

1912年創刊で石巻市,東松島市,牡鹿郡女川町をエリアとして発行している地域紙(夕刊紙),石巻日日新聞社は,東日本大震災時社屋の1階が津波で浸水,建屋内にある2機の印刷設備が一部浸水を受けたが,社屋は奇跡的に損壊を免れた。しかし電気をはじめとするインフラが破壊され,新聞を印刷する輪転機も動かすことができない状態となった。自宅にも帰れず,食事も十分に取れず,自らの家族の安否も分からない中,被災した地域住民に対する「伝える使命」を感じた同社社員達は,社内や車中に寝泊まりしながら新聞用ロール紙及びフェルトペンで被災状況,ライフライン復旧,支援状況等を記事とし,3月12日から3月17日までの6日間,手書きの壁新聞を避難所に貼りだした。3月18日にはA4判のコピー新聞が発行され,19日には輪転機が再稼働し,石巻日日新聞は震災後1日も休刊せずに地域住民へ情報を届け続けた。こうして届けられた情報は,情報が錯綜した被災地で,正確な情報を求めていた市民にとっての希望となった。
同社の貢献に対し,9月には国際新聞編集者協会(IPI)は年次総会で特別賞を授与した。また,米ワシントンDCにあるニュースの総合博物館ニュージアムは困難を乗り越えて発行された歴史的な紙面として同壁新聞を展示している(石巻日日新聞が求めに応じ寄贈したもの)。社員達は,現在も被災した自宅で生活するなど,困難な状況の中にあっても,石巻日日新聞の発行を続けることが地域の存続につながっていくと信じ,新聞発行を続けている。